熱量のある人の仕事を代替できるのは「熱量のある別の人」だけ。
先日は「チームづくり」という面で「人」と「仕組み」についてちょっと言及したけれど、今回は「企画」という面で言及してみる。
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僕は割と「こうしたほうが合理的だよね」というふうな論と理が構築された状態で企画を作る。不合理によって大変な目にあっているところが許しがたく、そこに自分の思う合理を当てはめることを得意としている。
ちょっと前までは合理を示す企画を伝えればあとは勝手に動いてくれるような、そんな「仕組み」が欲しいなと思っていた。実際、周りからも「イオリンさんは自分で色々やっているけれど、任せた方がいいっすよ」と言われることもあったし、実際「僕に依存している状態」というのはあまりよろしくないと考えていた。
でも最近はちょっと考え方を変えている。僕の仕事がすべて「仕組み」で機能するようになるのは到底むずかしいということだ。「ここはイオリンさんじゃないといけない」というポイントが必ず存在し、そこはしかも決して小さいポイントじゃなくって、むしろコア部分であるということ。
2024年はそういった部分も含めて仕組み化をトライし、そして失敗して大変な目に遭う・・・ということをずっと繰り返していたように思う。「自分がいなくても動くようにするのがベストだ」という良くいう格言・諫言に縛られていたのかもしれない。でも「そんなのは無理じゃん」と気づいた。
自分のことを重要なピースのように扱うのはあまり好きじゃないんだけれど、それは例えば「松本人志がいなくてもダウンタウンが成立するようにしよう」みたいなことだ。あまりにもコアすぎて無理だ(誤解を避けるために言うけれど「浜田雅功のいないダウンタウン」も無理)。
あるいは「車輪がなくても車を動かすようにしよう」と言うことに近いかも。究極、電気とか風力とかで出来なくはないけれど、それは結局「車輪じゃない別の代替の効かないピースが必要」というハナシになり、本質的に仕組みでカバーしているわけじゃない。
それは僕のスキルだけじゃなく僕の仕事に対する「熱量」のほうが大きい。
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これ多分、世間でもよく聞く「新しく採用されたプロジェクトマネージャの大半が機能しない問題」の原因の1つかなと思う。「コア部分をごっそり抜いた状態で任せてしまうので機能不全になる」という。
採用した側はコア部分も含めて仕組み化してカバーできるようにしたいし、採用されるマネージャサイドも仕組みでカバーしようとしてしまう。でも、企画を動かす「コア」・・・特に「熱」がごっそり抜けているから結果的に走りださなくてコケてしまう・・・といった場面が多いんじゃないかな。「熱」は仕組みで生み出すのは相当むずかしい。
もちろん「熱を原動力にせずに仕組みで回す」がビジネスで一番嬉しいことなんだけど、それって相当慎重にやらないといけないことだし、そこまで汲み取れる職業プロジェクトマネージャはあんまりいないように思う。
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こういった面を考えた時に記憶に浮かぶのは、ゲーム「クロノクロス」のリマスター版の製作者インタビューにおけるプロジェクトマネージャの語りだ。
社外諸々の調整などをやっていたその方は、「クロノクロスリマスター」に、そのプロットとも言える作品「ラジカルドリーマーズ」を入れるために当時のディレクターに掛け合ったという。ラジカルドリーマーズは当時からとても限られた環境でしかプレイできなかった。何度も移植の話はあがったものの、そのディレクターは長年、「ラジカルドリーマーズは完成しきっていないような作品」「今さら出すのは恥ずかしい、いやだ」と拒んでいたそうだ。
一方で制作チームは「今回、このクロノクロスリマスターに入れられなかったら次はない」と覚悟して絶対に入れるぞと思っていたそうで。そしてそのマネージャさんは長年拒まれていることを承知で「私は遊びたいです!」と説得し、実現にこぎつけたそうだ。
その語りには間違いなく「熱」があった。その熱が爆発力となり実現にこぎつけたわけで、ここは仕組みじゃない。「そこまで言うんならわかったよ」という熱の力だと思う。これが熱のない、ある種ノルマに追われた人の説得なら実現しなかったかもしれない。
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仕組み化が作動するのって基本的には「勝ち確」の時だけなんだけれど、勝ち確の企画なんてほとんど存在しない。
「この鈴を鳴らせば100%木の実が落ちてくる」とわかっていれば、鈴を9時、12時、15時、18時に鳴らす仕組みを作ってしまえばいいけれど「この鈴を鳴らしても木の実が落ちてくる確率が7割くらい」となれば話が変わってくる。15時に落ちてこないのはいいけれど、9時に落ちてこないのは困る・・・みたいな検討事項が爆発的に増える。
だから安易な仕組み化はいたずらにコストを増やすだけで結局「木の実がむっちゃ欲しい」と思っている人を1人あてがう方がずっと強固に回るようになる。
小さいチームの企画なんてのは7割どころか「順当に行けば失敗するよね」というのがほとんどだ。そこを試行錯誤につぐ試行錯誤、微調整に注ぐ微調整を重ねまくってようやく「ちょっと勝てるかも?」みたいなもの。そんな勝ち方をしているのに「勝てたから同じようにすれば勝てるよ」と仕組み化しても、試行錯誤する粘り強さがなければ秒で負ける。
これが「マネージャって厳しいよね」みたいな言論の根っこの1つかな?と思う。
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まぁとはいっても打つ手はあんまりないんだけれど、とにかく粘り強さのもとになる「熱」を育てる・・・つまりは仕組み化ではなく「新しく強い個体を作る」という方向のほうがいいんじゃないかなあ、と思う。というハナシでした。