自然だなあ
自然はいいねえ。僕は今、尾瀬という場所に来ていてね。今日は2日目なのだけれど、やっぱり思っちゃうね。自然はいいよねえ。多分、この尾瀬に来た人のほとんどが言うんだろうけど、やっぱり僕も言っちゃうなあ。自然はいいなあ、と。
でも色んな話を聞いていると、この自然の中で暮らすにはとてつもない人間の努力があるんだよなあ。お手洗いには濾過施設のようなものがあるしヘリでモノを運んだりしているしさ。山小屋でお食事をいただけるけど、それだって誰かが運んでいるわけでね。それらを僕らはいただいて、その中で「自然だなあ」だなんて思っている。それこそコレを書いている今、僕はカフェオレなんかを飲んでいるし、座っている椅子も机も、木製ではあれど人工物。
それでも僕らはそれを「自然だなあ」だなんて感じるし、それは別に変な話だとも思わない。つまりは人の営みにはきっと、自然を感じるものとそうじゃないものがあるんだろう。山小屋でお食事を提供するために献立を考えたりヘリに依頼したり、ってのは、とっても自然じゃないか。
そういう自然なお仕事ってのはきっと東京にもあるんだろう。緑はないし山も少ないけれど、例えば雑貨屋さんに入って、「これいいねぇ」って言って店員さんが「これはね…」みたいな話をしだすような、そんなやりとりの中には自然が潜んでいる気がするよなあ。
そう捉えるとまあ何が自然で何が自然でないかはちょっとわからなくなってくる。まあ今、この尾瀬にいて、「自然だなあ」と思う、その瞬間だけはきっと間違っていない。そこにだけ素直にいようと思う。言葉は無粋。今だけは。