彼らはずっといる
東京に住んでいる方々と話すと、「長野にも熊って出てるんですか」とよく訊かれる。その度に「まぁ目撃情報は近くでもありますね」と答える。でも僕個人はあまり気にしていないのに、東京にいる方々のほうが気にしている感じがあって、興味深いなあと思う。
僕にとっては熊の存在よりも、「高齢者マークをつけた車」のほうがずっと怖い。遭遇率がずっと高いし、実際に危ない目にあうこともあるからだ。いや、高齢者マークをつけていなくても、裏道で遭遇する車のほうがずっと怖い。それに比べれば熊なんて、出会わないし、あいつらも人間を好き好んで襲いたいわけじゃないから、そこまで怖くない。
まぁでも東京にいると、おおよそ熊なんていないわけだから、こう、モンスターみたいに映っているのかもしれない。なんか人間は実際たまに襲われるし、それが大々的に報道されて「気をつけましょう」だなんて言われるもんだから、「辺境の地は魔物が出るんでしょう?」みたいな。おもしろいなあ。インターネットとかなんだとかで「熊」はみんな知っているはずなのに。
もちろん農家さんだとか山際に済んでいるだとか、生活圏が被っている方々は生死に関わるハナシだからまさに魔物と言ってもいいのだけれどね。でも、まぁいますよ。増えたか減ったかはわからないけれど、僕らが生きているこの世界、この大地から地続きで、熊はいます。鹿も猪もいます。
思えば僕はわりかし昔から思っていたかもしれない。山とか森とかの景色を眺めながら「ここからは見えないけれど、きっと視界の範囲内には鹿とか熊とか生き物がいっぱいいるんだろうなあ」って。だから、「熊が出ます」って言われても、「まぁいるだろうなあ」って思うだけなのかも。