イオリンの手紙

瓶詰めの紙切れ

移り変わり

今日はよく空が晴れている。疑いようもなく冬は終わりを告げたようだ。このあたりは夜はまだ冷えるが、それも春の冷えであって冬ではない。季節は、移り変わったのだ。 近所の桜はすでに満開を終えて散り始めている。そこから命そのものみたいな青々とした歯をつけていくのだろう。僕は満開の花も好きだけれど、青々とした桜も好きだ。それに桜だけじゃない。色あせた土壌が気付けば緑に染まっているし、彼らも花々を咲かせている。 僕が長野に住んでよかったなと実感するのは、まさにこういう移り変わりを感じられるからだ。自然を訪れる場所ではなく住んでいる場所にする。そうすることで、変化を感じられる。 まあ東京に移り変わりがないわけではない。オフィスの前に新しいビルが建っていき、完成して、そこに人が入るようになる、その様はまさに移り変わりだ。寂れたクラブハウスがいつの間にか町中華になっていたり、カフェの装飾が季節ごとに変わったり。どっちが肌に合うか、でしかない。 もう少し言えば、もっとこう、混ざり合えばいいのだけれどね。ファンタジー世界にある古代遺跡とか石造りのお城みたいに、もっと自然と人工が侵食し合えばいい。箱根や熱海にある、廃業して自然に覆い尽くされた建築物を見ると、素敵だなと思うもの。あれ、なんだろうね。歴史を感じるんだろうね。 思えば僕が長野のこの町に来てまず始めに嬉しかったのは、道のコンクリートタイルの隙間から緑があふれ出していたことだ。「これこれ!」と歓喜したものだ。
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